グルッペでお昼ご飯を食べてから、久しぶりに駅前の岩森書店を覗いてみた。 岩森書店は、句集や詩歌集が中央沿線でも比較的数多く置いてある古書店である。昔の自分には、欲しい本があると懐具合を顧みずに買ってしまう悪い癖があった。去年の秋に郷里から戻ってからは家計簿をつけ始め、暫くは本屋に顔を出すことを自分に禁じていたのだった。しかし、今や質素な生活にもすっかり馴染み、また、衝動買いに屈するほどもう弱くはないぞ、と自分が信じられるようになった(つもりでいる)。立入り禁止区域から古書店をはずしても大丈夫だろう、そう思った訳である。 うーん、この感じ。蝋紙でカバーが施され、柵にきちんと並べられている様々な背表紙。本が大事にされているのを見るのは、やはり気持ちがいい。 《しかし、日野啓三の小説があったら分からんぞ》と思いながら、店の奥へと入っていく。幸か不幸か、彼の小説は見あたらない。俳句から短歌の柵へと視線を這わしていく。 詩の柵に移ったときに、一冊の詩集が目に入った。懐かしい名前。「清岡卓行詩集」である。 記憶の層から、彼の潤いを帯びた目が浮かび上がってきた。片方の目が大きく見開かれている。激しい時間の溶融と豊潤を感じさせる、彼の肖像だった。 幾らするのであろうか。いやいや、手にとってみるだけだったら許してあげよう。主人に硝子ケースの鍵を開けて貰い、直に触れてみる。いい装丁だ。値は1万8千円という。今は持ち合わせがないが、買えない値段ではない。そうだな、数日考えてみることにしようか。 自分の意志の強さを、あらためて確認しながら店を出たのだったが。はたして、ひと月後はどういう具合になっているかしらん。 |
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