あたらしい部屋での生活もようやく落ち着いてきた。 荻窪の駅からはだいぶ離れているが、古いお屋敷が残っている閑静な所だ。ゆうに2百年を越えていると思われる欅の大木が、萌えるような緑を日々点描していくのが眺められる。花の好きな住人も多く、散歩していてもたのしい。善福寺川沿いの桜には隠れたファンもいて、遠くから訪ねて来た人と挨拶をしたり、会話を交わしたりすることもある。 「桜の花を見ながら死にたい、という人の気持ちが分かるね。きみだったら、散る前と、散り際と、どちらの方がいいかい」? 久しぶりに訪ねて来てくれた友人は、散り際の方がいいね、と答える。 ぼくだったら、曇り空にあかるく映える、満開の桜にしたいところだ。 川沿いを歩いていくと、古いアパートの窓から、ふたりの老婆が身を乗り出し、大声で話をしている。枇杷の葉がつくるトンネルをくぐると、なるほど、向こうに満開の桜がよく見える。 |