新・荻窪便り No.3



 帰るところがある、それはありがたいことだ。ベットに横になり、四角い天井にむかってつぶやく。帰りたくても、帰れない人がいる。帰るということを、忘れてしまった人もいる。祖国。ふるさと。家。そして、自分自身。
 むかし、新宿でぶらぶらしていた頃、知り合いがよく言っていた。
「あいつ、行ったきり、戻ってこれなかったのさ」

 もう帰ることはないかもしれない。そう覚悟して、国を出たり、ふるさとを後にしたり、家を出たりすることもあるだろう。たとえ、どんなに辛い日々がつづいても、自分自身があれば大丈夫だ。そう信じて。




鳥が帰る 
大地に帰る
空から帰る

水に帰る 
海に帰る 
空に帰る 

帰るは還る
帰るは還る



 いつの間にか、頭痛もかるくなり、このぽっかりとした光景を前にして、帰れるってことはいいな、とまた呟いてしまう。



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