1997. 1.18


 新・荻窪便り NO.12



 先日、NHKの日曜美術館で、根津美術館所蔵の「那智瀧図」を見た。それ以来、ときどき額の奥から、すーと幽かなひかりの帯が流れ落ちているような、そんな気がすることがある。
 去年の秋、紅葉のもっとも艶やかな十月の半ばに、母は故郷の滝めぐりをしたという。正月の餅と一緒に、そのパンフレットを送ってくれた。「日本の滝百選」にも選ばれている名瀑が、ふたつある。「七滝」と「茶釜の滝」である。「茶釜の滝」は落差100m、幅15m。夜明島渓谷の奥深くにあり、かなりの難所であるいう。この滝の写真だけ掲載されていないのは、そのせいであろうか。ぜひ、目にしたいものである。今朝は、4時頃からぼんやりしていたが、目を瞑っていると、不思議と滝の音が聞こえてくるような気がした。小さい頃、夜明島の清流で鰍をとって遊んだ。あの、踝を冷たいひかりで照らすような水が、夜が明ける前の天空から注がれたものだとは、つい今まで知らなかった。



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