新・荻窪便り No.1






中尊寺の能楽堂


 これは、月の光に映し出された能楽堂である、と言いたいところだが、残念ながらそうではない。ばくがはじめて所有した中古の一眼レフの、自動露出計が狂っていたにすぎない。中学、高校時代には、叔父さんのペンタックスを首にぶら下げて被写体を探し歩いたこともあり、自分の単純な露光測定には多少自信を持っていた。(馬鹿のひとつ覚えではあるが)。しかし、中古とはいえ、世界に誇る日本のカメラ。ちょっとおかしいのでは、と思いながらも機械のメカの方を信用してしまった訳である。
 かくして、ぼくの最初で最後の写真旅行記は、ほとんど闇の世界におおわれ、滑稽な夢の記録と化してしまった。真っ黒でなにも写っていないものは破棄したが、すこしでも光が見えるものは大事に保存してある。とても捨てられるものではない。まあ、迷惑かもしれないけど、あと2枚お見せしましょうか。



蓮の花          毛越寺浄土庭園



 訪れたときは陽の光が実に気持ちの良い午後であった。
 盛岡から平泉まで戻る車中、扉の窓に中尊寺が現れるのを目にした老婆が、しずかに合掌していたのを覚えている。



(このフォトはライトボックスを利用し、スライドをスキャナーで読みとったものです。参考までに)


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