鹿角の天然記念物

 平成14年度末、秋田県文化課から秋田文化出版社経由で鹿角地区の天然記念物の取材をして欲しいとの依頼を受け、私への割り当て分の11カ所を、自分の文章でまとめてみました。

 1 十和田湖及び奥入瀬清流
 2 下川原のトゲウオ
 3 小豆沢のイチョウ
 4 大湯大円寺の杉
 5 長内のシダレカツラ
 6 新田町のシダレカツラ
 7 湯瀬のカラカサ松
 8 末広神明社の杉
 9 長峰昆沙門の大公孫樹
10 八幡平神社のミズナラ
11 大欠千手観音の大ケヤキ


1、十和田湖及び奥入瀬渓流(国指定天然記念物) 鹿角郡小坂町、青森県上北郡十和田湖町 
 十和田湖は大正5年(1916)「日本避暑三景」(中央新聞社)、及び、昭和2年「日本八景『湖沼の部』」で共に1位に指名されるなど、その景観の美しさはまさに日本一と称されてきました。その後、昭和3年(1928)に天然記念物に、昭和11年(1936)には国立公園に指定され、現在も日本を代表する自然公園として多くの観光客の心を潤しております。
 十和田湖は青緑の淡水を湛えた貧栄養湖ですが、その穏やかな水面の下は、実は複雑な陥没カルデラの三重火山です。
 この火山体の基盤は、西側が新生代第三紀の緑色凝灰岩のグリーンタフ、東側はその後に噴出した熔結凝灰岩であり、この上に安山岩や玄武岩の熔岩と火砕岩の噴出によってゆるやかな地形の成層火山が形成された後、大陥没によって第1次カルデラができました。その後の噴火によってかルデラの中に小さな成層火山が形成、これが再度陥没し第2次の陥没カルデラが形成されました。これが径3kmの中湖で、中山半島と御倉半島はカルデラ壁に当たります。最後に御倉半島とその沖の湖面下にある御門石と言われている石英安山岩の二つの小さな熔岩円頂丘ができ、現在の十和田湖が形造られました。
 

奥入瀬渓流は湖水の出口「子の口」から流れ出る奥入瀬川源流を言います。十和田湖からあふれ出た激しい流れは、長年の間に固い岩盤を浸食して切り立った峡谷を形成、四季折々の周囲の変化と相まってのすばらしい自然造園は、多くの観光客の心を魅了しております。
 渓流の両岸の断崖をつくる岩石はすべて熔結凝灰岩であり、銚子大滝をはじめとする大小の滝が見られます。なお、この岩石が形成された氷河時代末期の気候は、花粉分析からトドマツ、モミ、ツガ等、亜寒帯針葉樹林帯の樹木が多く、現在地表を覆っているブナ林に代表される落葉広葉樹林と比べ、4℃以上も低温であったと推測されます。
 十和田湖周辺の植生はブナ林によって代表されますが、湿性の立地を反映したサワグルミ林も各所に認めらています。半島部の周囲は断崖が多く、岩壁植生やカエデ類などからなる低木林が成立しています。奥入瀬渓流の両岸は樹冠が車道をおおうほどサワグルミ林などの渓谷林を主とした森林が続いており、春の新緑から秋の紅葉まで青緑色の湖水、渓流、断崖とともにすばらしい景観を示します。これら樹木類の彩色変化と他の自然環境が調和した十和田湖・奥入瀬渓流の景観は冷温帯落葉広葉樹林特有のものです。

◆面積/59.8Ku
◆交通アクセス/JR十和田南駅から秋北バス(0186-23-2183)で60分十和田湖(休屋)下車/JR盛岡駅からJR高速バス「とわだこ号」135分 十和田湖(休屋下車)



2、小豆沢のイチョウ (秋田県指定天然記念物) 鹿角市八幡平字小豆沢40

 秋田県指定のイチョウとのふれ込みであったので、その雄大さを頭に描きながら吉祥院の境内中をくまなく探しましたが、どこにもそれらしき巨木が見あたりませんでした。いったいどうなっているのだろうかと、狐につままれたような思いで疲れ切って境内に座り込んだところ、なんと写真の石碑が建立されておりました。結局はとうの昔に?倒れてしまい、そのお寺の檀家さんが巨費を投じて記念碑を作ったのでした。
指定解除日 1981年6月12日 理由 大雨により倒壊したので指定解除。



3、スギ  (秋田県指定天然記念物) 鹿角市十和田大湯字大湯165 大円寺境内

 現在の国道から十和田湖に向かって右側(山側)にある旧国道を走ると国道を横切る小さな川があり、そのそばに「大圓寺」と記した石柱の門が目に入ります。そこから300メートルほど川筋に沿って走行していくと、一気に視界が開け、見事な杉並木の参道が目に入ってきます。その中で特に目を引くのが推定樹齢2000年の巨大な老杉です。
 今から400年前の慶長13年(1608)、この寺が毛馬内から大湯に移ってきた時、既に観音堂の門杉として境内を守っていたとのことで、寺院の説明によれば、その当時は参道をはさんで2本の杉があり「寺の門杉」と呼ばれて大切に扱われてきました。 しかし、残念ながら徳川中期の大洪水の時、山側にあったもう一本の杉が流出され、現在残っているのは谷側の門杉だけになりました。
 車社会になった最近は、この老杉から20m程距離を置いて参道の東側を切り開き、車道と駐車場を作りました。そのため、結果的には、この大杉にたっぷり太陽が注ぐようになり、旺盛な樹勢を維持し続けております。

◆樹高/42M  
◆幹回り/9M
◆樹種/スギ科 スギ 
●交通アクセス/JR花輪線鹿角花輪駅から秋北バス梶i0186-23-2183)バス35分大湯中町停下車、徒歩10分/東北自動車道十和田インターより自家用車で15分





4 下川原トゲウオ生息地 (鹿角市指定天然記念物) 鹿角市花輪字赤川(俗称 長沼) 
 「下川原入り口」の案内に従って高速道路の高架橋をくぐるとすぐ「トゲウオ生息地まで120M」と書いた小さな案内板が目に付きます。
 指示通り移動すると年間を通して冷たい泉がこんこんと湧く小さな沼にたどり着きます。これが幻の魚トミヨを絶滅の危機から守り続けてきた沼で、魚の姿は見えませんが、セリやクレソンに守られながら小さな生き物のトゲウオがの生存が確認されています。

◆ 面積/280u
◆最大深度/50cm くの字形の細長い沼
◆水温/年中13℃
◆種類/トゲウオ科 トミヨ
●交通アクセス/JR花輪線鹿角花輪駅から秋北バス梶i0186-23-2183)下川原バス停下車10分

まさにくの字形の沼で、年中冷たい泉がわき出しております。

 


5 シダレカツラ(鹿角市指定天然記念物)   鹿角市八幡平字長内56 
 このシダレカツラは、岩手県早池峰山砂小沢のカツラ群生地の中に偶然1本発見されたのが元木で、これを明治30年頃八幡平長内の根本五郎翁が盛岡の庭師に接ぎ木を頼んだ2本を持ち帰り、その内の一本を自宅(現在は稲垣唯治宅)に植えたものである。なお、もう一本は十和田毛馬内の奈良正太郎家に贈ったと記されている貴重な樹木です。写真からは見えませんが、この稲垣家の庭園はコウヤマキをはじめとするすばらしい巨木が植栽されており、往時にはすばらしい庭であったことが伺えます。
しかし、時の流れは無情で、現在は誰も住んでおらず、庭は荒れる任せているのが悲しい実情です。写真で分かるとおり、貴重なシダレカツラには幾重にもツル性植物が重なり、樹勢の衰えが目に付きます。
でも、この記念物は個人のものなので、指定した鹿角市でも手の施しようがないというのが偽らざる現実といえましょう。
◆樹高/19M ◆幹回り/2.33M
◆樹種/カツラ科 カツラ



6 シダレカツラ(鹿角市指定天然記念物)  鹿角市花輪字新田町11−4
 この樹木は、上のシダレカツラ同様、岩手県早池峰山砂小沢のカツラ群生地の中に偶然1本発見されたのが元木です。これを明治30年頃八幡平長内の根本五郎翁が盛岡の庭師に接ぎ木を頼み持ち帰った2本の内、十和田毛馬内の奈良家に贈られた一本から分木したもので、元花輪高等女学校の校舎落成記念に当時教員であった瀬川宗吉氏によって校門の両脇に植えられたものです。写真のように周囲は舗装によって虐げられていますが、二本とも元気に生育しています。
◆樹高/第一樹(右側)15M、第二樹(左側)樹高15M
◆幹回り第一樹(右側)45cm、第二樹(左側)55cm
◆樹種/カツラ科 カツラ



7 唐傘松(アカ松)(鹿角市指定天然記念物)  鹿角市八幡平字湯瀬堰根口48
 
 通称「湯瀬街道」で、いつもドライバーの安全を見守ってきた銘木松で、唐傘を広げたような姿が人々に愛され、誰いうともなく「カサ松」と呼ばれています。
 走行する車からは少し大きめの盆栽にしか映りませんが、近くに寄ってみるとその巨大な迫力に圧倒されます。
 一時この樹の衰えが心配されましたが、湯瀬地区の方々の心を込めた手入れによって見事に復活し現在に至っています。
◆樹高/16M 
◆幹回り3.36M 
◆枝の広がり東西20M、南北19M
◆推定樹齢250年以上  
◆樹種 マツ科 アカマツ
●交通アクセス/JR花輪線湯瀬駅から徒歩20分



8 神明社親杉(鹿角市指定天然記念物) 鹿角市十和田末広字向平106
 旧国道である末広松山地区の中間点から山側に少し走るとこけむした鎮守の森が見えてきます。そして、見事な杉が神社に向かって植栽されていますが、その一番奥にあるのがこの親杉です。この杉は寛文元年(1661年)、柴内与兵衛氏がこの地に伊勢堂を建立した時には既にかなりの大木であったと記されています。現在でも、神社の鳥居に使った注連縄をを毎年暮れに親杉に巻き付け、その朽ち方で農作物の豊凶を占っていると聞いております。

◆樹高/30M 
◆幹回り6.12M 
◆枝張り20M
◆推定樹齢/600〜700年 樹種/スギ科 スギ
●交通アクセス/JR花輪線末広駅から徒歩20分




9 長峰昆沙門神社の大公孫樹(鹿角市指定天然記念物)  鹿角市八幡平字堂の前
 長峰地区をまっすぐ抜けていくと、その集落の端の方に鎮守の森である長峰村昆沙門神社入り口の案内が見えてきます。
そこから少し徒歩で上ると、明治以前から長峰村昆沙門神社の神木として地域住民を見守って昆沙門神社が出迎えてくれます。この神社は大日堂舞楽の鳥扁舞の額面、装束等を格納するお堂でもあります。
 その脇にそびえているのがこの大銀杏(公孫樹)です。「乳」と呼ばれている気根は約50個もあり、その長さは10〜90cm、直径は8〜30センチにも及び、その景観は見事の一言です。
◆樹高/30M 
◆幹回り/5.53M
◆推定樹齢/370〜380年 
◆樹種/イチョウ科 イチョウ
●交通アクセス/JR花輪線鹿角花輪駅から秋北バス梶i0186-23-2183)バス20分、長峰バス停下車徒歩5分





10 大欠千手観音堂の大ケヤキ  鹿角市十和田末広字沖ノ平63
 末広地区ですが、この大欠は国道をはさんで松山地区の反対側にあり、かって小真木鉱山が栄えた頃、大きく繁栄した地区だと言われております。
その頃からこの大欠地区の心のよりどころになってきたのが千手観音堂で、五穀豊穣、無病息災、家内安全を祈願して春祭り、夏祭り、秋祭り等を、集落での交流の場として中心的存在になっております。
 その神社の神木がこの大ケヤキで、古来より住民が崇敬するシンボル的樹木で、住民の精神的よりどころの一つとして生産の活力の源泉の礎をなして今日に至っております。
◆樹高/25M 
◆幹回り/5.4M 
◆推定樹齢/250年 
◆樹種/ ニレ科 ケヤキ
●交通アクセス JR花輪線 末広駅から徒歩30分
 余りに樹が大きいので境内の外側からでないと全景を写せませんでした。この写真が大欠千手観音堂です。




11 八幡平神社境内のミズナラ(鹿角市指定天然記念物)  鹿角市八幡平字切留平50−2
 八幡平の別荘地入り口に大鳥居がありますが、それから少し車を走らせると、八幡平神社に到達します。今でこそアスピーテラインが通り便利な山になっていますが、それよりも太古の700年以前には、この八幡平は人を寄せ付けない原始林でした。その開拓の拠点になったのがこの切留平開拓地区で、狩猟者の、そして、放牧の監視の拠点としての宿営の地になりました。その後、ここでの生活を営む住民によって神社が創設され現在に至っております。 その神社の神木にあたるのが、大きな板根をもつ自然木「ミズナラ」で、近代的な別荘に囲まれながら今も私たちを暖かく見守り続けております。


◆樹高/25M 
◆幹回り/5M、
◆推定樹齢/350〜400年
◆樹種/ブナ科 ミズナラ
●交通アクセス/JR花輪線鹿角花輪駅から秋北バス梶i0186-23-2183)バス50分ナナカマド団地前下車、徒歩10分