雁の声を聞いた

雁の渡ってゆく声は

あの涯のない宇宙の深さと

おんなじだ



        村上昭夫詩集『動物哀歌』
        「雁の声」から




  昨年の暮れ、東北新幹線の車窓から、飛来する雁の群を見た。

黙って窓の外を指差すと、一瞬、となりの女学生は脅えた顔をしたのだが、

小さな隊列を組んで飛ぶ雁に気がつくと、

あれは何という鳥ですか、と、遠慮がちに訊いてきた。



「雁の声」がふと聞こえてきた。

その詩の冒頭を、女学生に聞かせてあげたいと思ったが、

さすが岩手は詩人の郷、彼女はすでに詩人の名を知っていた。



死者があの世に渡る道であるという、雁の道。





      1927年
1967年
1968年
1968年
村上 昭夫

岩手県東磐井郡生まれ
『動物哀歌』により、土井晩翠賞
同じく『動物哀歌』によりH賞を受賞
長い闘病生活の果てに、永眠
  村上昭夫詩集『動物哀歌』の表紙で、鹿踊りの図



  14 Jul. 1999   HOME