南青山アンティーク通りクリニック

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【第二部 Naturally】

第十三話 忘れるADHDと忘れることが出来ないASD(動画あり)

令和二年九月三十日(水曜日)

いじめの記憶

 あるクライアントは小学生低学年の時、とても辛辣ないじめを受け、それが今でも忘れられないと強く訴える。あたかも今の精神状態の悪さがそこから来ているかのように…。  
 それが事実であるかどうかの判別は難しい。
 というよりも、判別できるわけがない。

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 が、少なくとも彼女にとって忘れることのできない出来事であることだけは確かである。
   こういう訴えで心療内科を受診するクライアントはすごく多い。

 忘れることができないトラウマ。

 消えないいつまでも続くトラウマ…。

いつまでも覚えている

 「よく覚えているね」
 「いつまで経っても忘れない…あれほどいじめられたことはなかったから」
 という会話は多い。
 いじめたほうは忘れているが、いじめられたほうは忘れることが出来ない。

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 人間の記憶は短期記憶と長期記憶に分けることができる。
 前者は大脳辺縁系の海馬に一時保存することができる。前者の短期記憶である。もし、その短期記憶が消えてなくなる前に、何度も繰り返し覚え、強化、補強しておけば、長期記憶として大脳皮質に記憶が移行する。
 繰り返し覚えなくても、強烈にインパクトのあることで、厭な出来事であれば、誰でも忘れることが出来ない。

ADHDとASD

 発達の凹凸は誰にでもあるが、その程度が強く、運悪く勤務先や学校で不適応を起こせば、発達障害として薬物治療などの何らかの治療を行う時代である。
 その東西の横綱が、ADHDとASDである。
 前者のADHDでは、その瞬間は覚えていてもしばらくすると忘れてしまう。短期記憶として海馬に記憶が一時保存することができても、長期記憶として大脳皮質に記憶が残りにくい。
 これに対して、後者のASDでは、暗記が得意ですぐに覚えることができるし、なかなか忘れたくても忘れることが出来ない。
 両者は対照的な特性を抱えている。
 いずれの発達の凹凸も、対人的なコミュニケーションが決して上手いとは言えない。
 とくに後者のASDはコミュニケーションに大きな問題を抱えている。しかも、忘れることが出来ない苦しみが常に付きまとう。一度でも強烈な嫌な体験をするとなかなか消すことが出来ない。
 それこそ、人が怖くなり、それこそ自閉的になってしまう。まさしく自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder, ASD)の自閉症傾向である。
 覚えられずにすぐに忘れてしまうのは確かに困るが、忘れたくても忘れることが出来ずに、些細な刺激でフラッシュバックし、あたかもPTSD様の症状を呈するのも困る。

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 理想は、嫌なことをすべて忘れ、覚えておきたいことだけ覚えておくことができることである。選択的に記憶をハンドリングできれば最高であるが、ほとんどの人がハンドリングできない。嫌なことばかり覚えていて、忘れていけないことを忘れる。

 私は後ろを振り向かない性格なので、ある程度、記憶のハンドリングは可能。
 もし、フラッシュバックするようなことがあったとしても
 「それがどうしたの?終わったことを今さら蒸し返すなよ…」。
 フラッシュバックしないから言える、<とても軽い>言葉なのかもしれない…。
 もし、私がフラッシュバックで苦しむタイプの人間であれば、文章が全然違ったものになる。

グラデーション

 例えば、ADHDのなかでも衝動性や多動性が希薄で、天然系のADD女性と、コミュニケーションが苦手で対人関係の構築の下手な男性が、結婚し、子どもを授かるとどうなるか?

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 とても興味深いADHDとASDの何とも言い難いグラデーションを描く。
 ひとりではなく、二人目、三人目ができるとどうなるか?
 三人とも絶妙に異なる、言葉では言い難いグラデーションを描く。

 二世代、三世代に遡ることが出来れば、二世代、三世代先にどういう可能性を秘めているかをクリアにできればと思う。

可能性

 例えば、
 ある人は、
 ADHD特性30%、ASD特性40%であるが、運よくADHD、ASDいずれの診断基準を満たさない。しかし、いずれもグレーソーンである。自営業で適応しなくてもいい。周りが動いてくれる。
 同じ家系のある人は、
 ADHD特性10%、ASD特性80%であり、診断基準を満たし、ASDと診断される。会社では言語を介したコミュニケーションができないと再三再四指摘されている。
 また同じ家系の別の人は、
 ADHD特性90%、ASD特性25%であり、現代の診断基準では、ADHDと診断され、ASDはグレーゾーンである。整理整頓がまったくできない。たまたま主婦であり、家族全員が絶えている。
 ということも起こり得る。

   そういうクライアントに数えきれないほど出会った。
 予測できないほどのバリエーションに富んでいる。しかも、一人ひとり精査しないと見えてこないこともある。

 連続体というスペクトラムで捉えるのが常識化しつつある昨今では、ある診断基準を設定し、それが満たすかの重要性は下がっていくかもしれない。それよりも今生きている社会に適応しているかどうかのほうが遥かに大切である。
 不適応を起こしているからこそ受診する。適応していれば、受診することは少なくなる。受診動機が下がり、受診への必然性はあまりない。

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 それよりも、奏でるグラデーションを眺めていると、アートの世界に近いというイリュージョン(錯覚)を起こしてしまいそうになる。しかし、生物学的に見れば、遺伝学の領域であるがゆえに、サイエンスの世界である。
 アートとサイエンスの入り混じった世界…。

 これ以上の部分はブランクである。
 ここで書けば、その言葉の真意を理解しないまま、言葉だけが独り歩きしてしまう。

 とてもリスキーな状況になってしまう。

 精神科医になって、視覚の網膜に映る景色が、少しずつ変化している。
 網膜に映る視覚的な世界に加えて、視覚を介さずに脳を直接刺激する世界も面白い。
 徐々に楽しみが増えてきた…。

(第十三話)特別編集動画

※今回のブログ(第十三話)を特別編集(動画)しました。ナレーションはkoefont(AI:人工知能)です。
※音声ONですが、OFFにもできます。第十九話も動画編集しています。


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